おもいで科学館 その1

 現在の科学館は昭和63年にオープンしたのですが、筆者はその4年ほど前から、宇宙分野の専門職員として主にプラネタリウムや天文台などの準備を担当していました。当時はパソコンが普及し始め、社会全体に大きな影響を与えていきますが、私の仕事でも変化を感じていました。

当時県庁では、パソコンがあるのは私のいた部署くらいで、当然ワープロもなく、皆さん手書きで書類を書いて、正式な文書はタイプライターで専門の人に打ってもらっていたのです。パソコンで動くワープロを試してみたのですが、改行すると読点だけ行頭に来てしまうお粗末なものだったのを覚えています。

私にとっては、パソコンはどちらかというと宇宙や科学の計算をさせるのに役に立つ機械でした。計算速度は、現在のパソコンと比べるとはるかに遅かったのですが、それでも太陽系の惑星の運動の計算をさせてみると、面倒な計算を飽きることなく繰り返し、ケプラーの言うとおりの楕円軌道を描くのでとても感動しました。(※)

 パソコンは、プラネタリウムも大きく変えました。当時、八幡山の上には現在の科学館の前身にあたる児童会館という施設があって、そこにもプラネタリウムがあったのですが、解説員が手動で機械の操作をしながらマイクで星座の説明をするだけのものでした。それはそれで素朴な味わいがあったのですが、そこにパソコンでプラネタリウムを制御し、テープレコーダーとスライド投影機を同期させて、自動で投影するシステムが出てきたのです。

現在では、プラネタリウムはさらに進化して、スライドではなく高画質の動画を映せるものが主流になっています。今回のリニューアル後のプラネタリウムは、迫力のある演出を楽しめると同時に、経験豊富な解説員の肉声による味わい深い星座解説も聞けるという贅沢なものになることを期待しています。

成島晋也(なりしましんや)元科学館職員


※プログラムができる人は、この計算をやってみると面白いと思うので流れを書いておきます。
(1)最初に惑星がどこにあってどのくらいの速度で動いているかを自由に決めます。(これを初期条件といいます。)
(2)太陽と惑星の距離がわかるので、万有引力の法則より惑星に働く太陽の引力の強さがわかります。
(3)運動の法則により、この引力が惑星の速度をどれくらい変化させるかがわかります。
(4)この変化した速度で動くとき、短い時間の後に惑星がどの位置にあるかがわかります。
(5)(2)に戻り新しい位置での太陽の引力を求めます。
このループを何度も繰り返すと、惑星の位置が次々とわかるので惑星の軌道を描くことができます(図)。ニュートンは、コンピュータが無かった時代に、万有引力と運動の法則により惑星が楕円軌道を描く理由を解明しました。

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